その手が彼の首に巻き付く。
「信太郎!」
男よりも頭一つ分背の高い信太郎が必死に抵抗するも、獣のように歯をむき出してつかみかかる高林に、彼はなすすべもない。
線の細い高林の、どこにこんな力があるのだろう。
信太郎は次第に朦朧とする意識の中で、そんなことを考えていた。
「クソガキ、クソガキ、クソガキ…」
歯の間から呪文のように漏れるその呟きと共に、男は彼の首をギリギリと締め付け続ける。
「…くっ…」
息苦しさのあまり、信太郎が白目をむいた時だった。
「誰か助けて!!人殺し!」
恵麻が大声で叫んだ。
「助けて!!」と。
その声に高林の手が緩む。
人に見られてはまずいと思ったのだろうか。
それとも、助けを呼ぶ恵麻の言葉に裏切りを感じたのか。
「…えまぁぁぁー!!」
今度は低い唸り声を上げながら、高林は再び恵麻に向かって突進していった。
「…や…めろ!」
霞んだ視界の中で伸ばした信太郎の長い手が、男のカッターシャツの襟ぐりをつかんだ。
そのまま、恵麻から遠ざけようと力の限り自分の方にその手を引き寄せる。
もうそこからはスローモーションを見ているようだった。


