そんな時、急ブレーキの音がしてタクシーが一台、彼女たちの目の前に滑り込んできた。
「恵麻!」
「夏海!」
開け放たれたドアから、信太郎の両親と克彦がころがるようにして出てきた。
天宮研一と亜希子はうずくまる娘、恵麻に駆け寄る。
「どうしてこんなことに!」
しゃくり声をあげて泣く恵麻は何も言わない。
「とりあえず、刑事さんたちに詳しく話を聞こう」
気丈にも研一がそう言った。
彼も下唇を噛みしめたまま小刻みに震え、今にも前歯がその乾ききった唇を噛みきってしまいそうだ。
「捜査一課の加瀬です。中へどうぞ」
恵麻に付き添っていた刑事が、厳しい顔つきで天宮夫妻を見やり、署の玄関へ案内する。
そんな様子をどこかしら夢見心地で見ていた夏海の腕を、克彦が引っ張った。
彼も悲痛な顔をしている。
「とにかく今夜は帰ろう。俺たちがここにいたってどうにかなるわけじゃない。かえって迷惑になる」
「…やだ」
「おまえの話は、また後日って警察も言ってる」
「やだ」
「夏海」
「あの時、また後で…って信ちゃん言ったんだよ?すぐに帰ってくるって言ったんだよ!?」
大きく見開いた目から、次から次へと止めどなく涙が落ちてゆく。
彼女の顔は警察署のランプに照らされ、不気味なほど赤かった。
まるで流された血のように…。
「私、待ってる。ここで信ちゃんを待つ」
「馬鹿なことを言うな」
「ほっといて!」
「いい加減にしないか!」
無理矢理娘を抱きかかえると、克彦は待たせたあったタクシーへと乗り込む。
「離してよ!そばにいたいの!信ちゃん!信ちゃんっ!」
遠ざかる警察署のいくつもの窓から漏れる煌々とした光が、涙で滲む。
「信ちゃん!」
夏海は喉がつぶれるほどに叫んだ。
「いやぁぁぁ!」


