食べられそうにない…
口に入れた瞬間、すぐにでも吐き出してしまいそうだった。
信太郎が不思議そうな顔で、夏海の手元を顔を交互に見る。
「…あ、ごめん。実は夏バテしてて、胃が受け付けないんだよね…」
箸を置くと、隣を見やりもう一度「ごめん」と言った。
「なんだよ、だったら早く言えよ。それならうどんとかそばのほうがよかっただろ」
そう言って彼も箸を置き、水を飲んだ。
「気を遣わせてごめん。信ちゃんはしっかり精をつけて」
自分の丼を信太郎の方へ押しやる。
「これ食べ終わってからおまえのも食うよ、置いといて。それより、味噌汁くらい飲んどけよ」
肉をほおばりながら、顎をしゃくって彼は言った。
正直、その味噌汁の匂いさえも今はきつい。
しかし、ここでいらないと言えば、彼に変な心配をさせてしまうのは確かだ。
夏海は笑って「うん、いただきます」と汁椀に口をつけた。
外は炎天下だ。
歩くのが速い信太郎に必死になってついていく。
その時、激しい胸焼けを覚えた彼女の目に、小さな公園の公衆トイレが飛び込んできた。
「ごめん…ちょっと…」
「ナツ?」
彼を置いて夏海は口を抑えて小走りに公園に入った。
しかし、込みあげてくるものをがまんできず、入り口付近の手洗い場にしゃがみこんだ。
喉の奥がグゥ…と奇妙な音を立てたが、何も出てこない。
「ナツ」
信太郎も慌てて駆け寄ってくる。
「気分が悪いのか?」
そう言って背中をさする。
「大…丈夫」
「大丈夫なわけないだろ。とにかくこっちに来いよ」


