彼らは静まり返った海岸に来ていた。
灯台の光が一定の間隔を置いて海面を照らしていく。
シャクシャクと砂を踏みしめる足音が二つ、打ち寄せる波の音の合間に響いた。
「雅樹」
信太郎が神妙な面持ちで、先を歩く親友に声をかけた。
「んー?」
彼は足を止めたが、振り返ることなく彼は真っ暗な闇にちらほら浮かぶ漁船の灯火を見ながら、間延びした声で返事をした。
「どういうつもりだよ」
「なにが?」
「とぼけんなって」
信太郎はむんずと彼の肩をつかむと、力づくで自分に向き直らせた。
「わかってんだろ?」
険しい顔の信太郎とは違い、雅樹は穏やかな目元のまま彼を見つめた。
まん丸の青白い月だけが、彼らを照らす。
こういう時の月の光は意外と明るいものだ、信太郎は思う。
雅樹はつかまれた彼の手をそっとはずすと、
「ああ、キスしたこと?」と何の悪びれもなく、突然言った。
あまりにストレートな答えに、問い詰めようとした信太郎のほうが一瞬うろたえたほどだ。
「信太郎、見てたんだ」
「…たまたま、だよ。それに誰かに見られてもおかしくないだろ、あんなとこでさ…」
そんな彼にふっと笑って「いやいや、おまえには言われたくないよ。誰かさんは人でごった返す駅の改札でキスするんだからな」と言うと、雅樹は再び背を向けて海を見た。
「それに、付き合ってたらキスするくらい普通だろ?」
「付き合っ…」
信太郎の声がかすれる。
「…まぁ、それなら…まぁ…」
動揺を隠そうと彼が咳払いを一つすると、その反応に満足したように、「なーんてね」と雅樹は笑って振り向いた。
「は?」
「冗談だよ、付き合ってないよ」
からかわれた、そう思った信太郎はカッとなる。
「いい加減にしろよ!じゃあなんで…!」


