「武ばぁがどれだけナツを大切に思ってきたかわかってるよ。だからあんたの分まで、今度は俺があいつを守ってやりたいんだ。いつかおっさん…いや、克彦おじさんには言うつもりだけど、まずは武ばぁに言っておきたかったんだ」
夏海の胸が激しく打ち、身体中が熱くなる。
「嫁にほしいんだ」
蝉が鳴き止んだ。
あれほどけたたましく、わめくような声で鳴いていたのに。
「こんな言い方じゃダメだよな」
そう言って、信太郎は焼け付くように熱くなっているであろう墓石に手を置き、許しを乞うように言った。
「…どうか夏海さんを僕にください」
頭を下げて、もう一度彼は同じ言葉を繰り返した。
「夏海さんを、僕にください」と。
こんなにも胸が高鳴ったことは生まれて初めてだ。
耳の先までじんじんと熱くなり、身震いするほどに喜びが全身を駆けめぐる。
たまらず夏海は来た道を駆け戻った。
太陽が眩しくて目を細めた。
今日の日のことを一生忘れない。
彼の今の言葉を、生涯の宝物のひとつにする。
信太郎の愛を一身に受けている実感に、夏海は火照った頬を両手で包み込んだ。
ああ、そう言えば「桔梗」の花言葉。
昔、武子に教えてもらったことがある。
早くに亡くなった祖父を想って、その花を庭に植えたのだと言っていた。
確か…
彼女はこぼれ落ちる涙を指で拭った。
桔梗の花言葉、それは
「変わらぬ愛」。


