「愛してる」、その続きを君に



「なぁ武ばぁ、覚えてる?小6の今ぐらいの時期だったかな、俺たち3人がイタズラして、あんたにめちゃくちゃ怒られてさ。仕返しに俺たちが武ばぁの部屋に捕まえてきた蝉を放しただろ?ジージーって今みたいにすっげぇうるさくって…。武ばぁ、網を持って走り回ってたっけなぁ」


背を向けているので、表情はわからないが、微かに声が笑っている。


ああ、そんなこともあったな、あの後また更に怒られたっけ、と夏海も思い出して白い歯が見える。



「あんたが倒れてから、いろんなことがあったよ。でもナツは真っ直ぐ前を向いて歩いてる。すごいな、あいつは。さすが武ばぁの孫だよ。心配しなくていい。俺もついてるしさ…ってこんなこと言えば、あんたが生きてたら、布団たたきでも振り回して俺の後を追いかけ回しただろうな。このませガキが、なんて言ってさ」


そしてまた笑うと、しばらく彼は黙った。


汗でシャツが背中に張り付いている。


夏海はそんな信太郎の広い背中を見つめていた。


そんなこととはつゆ知らず、彼は意を決したように大きく息を吸った。


「なぁ、俺さ、武ばぁに謝らなきゃいけないことがあるんだ。倒れる前に俺に怒鳴ったろ?ナツは絶対におまえにはやらんって…」


夏海は少しとまどった。


そんなことがあったなんて、と。


「あれ、撤回してもらえないかな。何年先になるかわかんないけど…」


笑いの混じった、何ともお調子者の信太郎らしいその言い方。


しかし、次に彼の口から出てきた言葉は、優しく語りかけるようでもあり、力強く言い切るようでもあった。


「ナツを俺にくれよ」


彼女は思わず声をあげそうになるも、慌てて口を抑えた。


信太郎は続ける。