「愛してる」、その続きを君に



今日は武子の命日だ。


もう3年も前になるんだな、と夏海は墓地へ続く砂利道を踏みしめながら汗をぬぐった。


耳が割れそうなほどの蝉の声に、頭がクラクラする。


彼女はふらつきながら木陰に入った。


今朝は久々に激しい胸焼けで目が覚めたのだった。


今もその感じは続いている。


ペットボトルを取り出すと、その胸の不快感をごまかすようにミネラルウォーターを胃に流しこんだ。


墓参りを終えたら、町の診療所に行ってみよう。


薬をもらって飲めば、少しは楽になるかもしれない。


夏海が再び歩き始めてすぐに、ふうっと線香の匂いが鼻をかすめた。


彼女の他にも墓参りをする人がいても、なんらおかしいことではない。


しかし目の前に飛び込んで来た後ろ姿に、彼女は足を止めてしまった。


「信ちゃん…?」


そこには白いTシャツにジーンズといったラフな格好の信太郎が、佐々倉家の墓の前に立っていた。


手にはがらにもなく、小さなブーケを持っている。


ブーケといっても、自分で摘んできたであろう花を新聞紙で包んだだけのものにすぎなかったのだが。


青紫色の星形の花。


桔梗(ききょう)だ。


武子が好きで、自宅の庭で大切に育てていた。


それを知ってか知らずか、彼はその花を持ってきてくれている。


「あっちぃなぁー今日も」


腕で額を拭いながら、彼は墓の前でしゃがみ込んだ。


豊浜に帰ってきてるなら一言言ってくれればいいのに、と夏海は一歩を踏み出す。


しかし、今の彼の背中からは決して邪魔をしてはいけない雰囲気が漂い、声をかけることをためらわせた。


隠れるようにして、その様子をうかがう。