「愛してる」、その続きを君に



次の朝、リビングから聞こえてくる言い争うような声に、夏海は目を覚ました。


隣で眠っているはずの信太郎の姿がない。


きっと恵麻に同じ部屋で一晩を過ごしてしまったことを責められているに違いない。


夏海は慌てて服を着ると、部屋を出た。


しかし、どうも様子が違う。


責めているのは、むしろ信太郎のほうだ。


悪いとは思いつつも、彼らの会話に耳をそばだてた。


「だからどうして早く言わなかったんだよ!」


「あんたには関係ないでしょ!」


「関係ないことあるかよ!とにかく警察行こう」


「やめてよ、そんなことしたら会社にいられなくなっちゃうじゃない!」


「んなこと言ってる場合じゃないだろ!じゃあ、親に知らせる」


「いい加減にして!時間が経てば落ち着くって」


かたくなに恵麻は弟の言葉を拒み続けている。


信太郎が舌打ちするのが聞こえた。


夏海は音をたてぬように部屋に戻り、そっとドアを閉めた。


どうしたというのだろう、信太郎があそこまで声を荒げるのは珍しい。


ベッドに腰掛けたまま、夏海は時が過ぎるのを待った。


しばらくして、ドアがそうっと開き、信太郎がうかがうように顔をのぞかせた。


「なんだ、起きてたのか」


「あ、うん…」


なんだか顔をあわせるのが恥ずかしくて、夏海はうつむく。


彼はズカズカと苛立ったように部屋に入ってくると、彼女の横にドカッと乱暴に腰を下ろした。


「あの…」


気まずそうに口を開いた夏海の言葉に重なるように彼は言った。


「恵麻に昨日のことを訊いた」


「昨日のこと?」


「俺が名前を呼んだ時に、なんであんなにビビった顔したのかって」


そうだった、夏海も不審に思うほどに、彼女は怯えていた。