「愛してる」、その続きを君に



背後から回された信太郎の腕に、力がこめられる。


ここまできたら、自分たちが今からどうなるのか、何をするのか、なんとなくわかっていた。


恵麻に泊まらないか、と言われた時点で、こうなることを期待していたのではないかとも思う。


恐る恐る彼女はその手に自分の手を重ね合わせた。


「ナツ」


「…信ちゃん…」


確かめ合うように、二人は息のような声でお互いの名を呼んだ。


握りしめた夏海の指にぎゅっと力が入ると、耳元で信太郎が優しく訊いた。


「怖い?」


彼の息づかいが耳に伝わると、じん、と焼き印を押されたかのように熱く痛くなる。


それなのに全身には鳥肌がたつ。


「ううん、怖くないよ。だって…信ちゃんだから…」


シャツのすれる音がやけに大きく聞こえる。


「俺はさ、怖いよ…」


彼は夏海の肩に顔をうずめると呟いた。


「相手がナツだから。おまえを傷付けたらどうしようって…」


いつもの飄々(ひょうひょう)とした信太郎は、どこにもいない。


彼女の身体に触れること自体、今は恐れを抱いている、そんな感じだ。


「信ちゃん」


夏海は彼に向き直ると、つま先立ちで自分から唇を押し当てた。


静かな口づけを繰り返すと、信太郎はゆっくりと夏海をベッドに横たえる。


恥ずかしさのあまり、彼女はベッドの端に寄せられた季節外れの毛布を胸元に引き寄せた。


「大声をだすなら今だぞ」


出さないよ、と瞳を閉じた彼女の唇を信太郎は再び塞ぐ。


先ほどの優しさとは全く別の、甘美で何もかも融かしてしまうような熱いキスだった。


その幾度となく繰り返される口づけに、夏海の身体からしだいに力が抜けていった。


耳元で「ナツ」と彼が呼ぶ。


その息の混じった声が、彼女の全身に染み渡ってゆく。


彼の長い指が触れた後には、そこは微かに熱を帯びる。


彼の唇が這った後には、そこに味わったことのない感覚がほとばしる。


夏海は閉じていた瞳を、ゆっくりと開けた。


信太郎の肩越しに見る天井が、まるで霧の中で見る夜空に思えた。