「いいじゃん」
「え?」
信太郎が夏海に近付いてくる。
手が汗ばむのがわかった。
「付き合うまでにすれ違いが長かったんだからさ、少し欲張ってもバチは当たらないって」
「もしバチが当たってK大落ちたら、どうすんの?」
「おまえー!言ったな!」
そう言って、彼は夏海の髪をくしゃくしゃとかき乱した。
「やめてぇ」と彼女が小さな悲鳴をあげた時、カチャリと彼らのいる部屋のドアが風で閉まる。
「結構風きついね」
夏海は窓を閉めると、静かにカーテンを引いた。
「さぁさぁ、その話はまた後にして。信ちゃんも早く勉強…」
そう言いかけて、身体が一瞬にして強ばった。
瞬きを何回もするが、金縛りにあったように指一本ピクリとも動かない。
耳元に信太郎の息づかいを感じた。
胸元では、彼のたくましい腕が交差している。
喉がカラカラで、声を出そうとすると痛いような熱いような、体験したことのない感覚を覚える。
彼に包み込まれ、まるで全身の血が普段の何倍もの早さで駆けめぐるようだ。
「…変なことしないって、さっき言ったよ?」
やっと出た、かすれた声。
「これをおまえが変なことだと思うなら、大声を出せばいい」
そんなこと思うわけがない。
こんなにも身体中が彼に包まれて、喜んでいるではないか。
「なぁ、ナツ。1週間に1回、いや2週間に1回でいいんだ。会ってほしいんだ。このままだとさ、俺…ダメになる」
もちろんだよ、もちろん会いたいよ、そう言いたいのに声が出ない。
「勉強は絶対に手を抜かない。今まで以上にする。だから…」
夏海はゆっくりと頷いた。
言葉にする代わりに、何度も何度も頷いた。


