夏海はシーツを撫でた。
素朴な匂いがする。
信太郎の、彼の匂いだ。
「入るぞー」
突然開いたドアに、夏海は飛び跳ねるように起き上がった。
「ノックしてよ、ノック!」
「バカタレ!ここはもともと俺の部屋だろ。声かけただけでもありがたいと思え」
そわそわする夏海に、信太郎は鼻で笑うと
「別に変なことしないし。心配なら大声出せば?」と開けっ放しのドアを振り返った。
廊下を挟んだ向かい側に恵麻の部屋があり、なるほど、と夏海は納得する。
「参考書を取りに来ただけだから。リビングでちょっと勉強してから寝るよ」
「じゃあ私がソファーで寝るから、信ちゃんはここで勉強してよ」
「そんなことしたら恵麻に怒られるじゃん。面倒くさい」
「大丈夫、私がソファーがいいって言ったんだって説明するから」
しばらく続いた押し問答の末に、信太郎が呆れたように言った。
「強情だな、ナツは」
彼が窓を開けると、すこしひんやりした風が柔らかなカーテン生地を揺らめかした。
「信ちゃんこそ」
ふふふっと笑う夏海に、信太郎もえくぼを作る。
「あのさ、来週もまた会えないかな。土日は仕事休みだろ?これから週末は…」
彼の言葉に夏海は切ない瞳で振り返る。
嬉しかった。
会えないか、その言葉が何よりも嬉しい。
会いたい、毎日でも会いたいと思うほどに信太郎のそばにいたい。
「無理無理。だって信ちゃんには勉強があるじゃん。それに私、絶対邪魔しちゃうもん。自信ある。毎日電話できるだけでいいよ」
思いとは裏腹の言葉が口をつく。
「なんだかさ、長い間おまえに会わないと落ち着かなくて。去年も会いたいのに会えなくて、結局イライラしちゃってさ。だから…」
「そんなこと言ったって。毎週末会ったりしてたら、私絶対に欲張りになっちゃう。絶対!もっともっと一緒にいたいってわがままになっちゃう」
夏海はかぶりを振った。
怖い、彼の邪魔になることが。


