畳に何本かビールの空き瓶が転がっていた。
天宮研一と佐々倉克彦は真っ赤な顔で一言しゃべっては大笑いし、そしてまた飲むといったことを繰り返していた。
空いたグラスに恵麻が「次は焼酎でーす」と陽気な声で注いでゆく。
「きれいになったね、恵麻ちゃんは」と克彦が目を細めると、次は研一が「なっちゃんだって」とお互いの娘をほめ合う。
しかし、克彦がふっと表情を引き締めたかと思うと、グラスを置いた。
「なぁ、研ちゃん。お願いがあるんだけど」
「なんだよ、改まって」
よせよ、とでもいうふうに研一は手を振る。
しかし、いくら待っても次の言葉が出てこない克彦に、とうとう研一の方が話を促した。
「なんだよ、カッちゃん。早く言ってくれよ。気になって酒がまずくなる」
「…実はさ、俺なりに夏海のことをいろいろ考えたんだ。母親もいないし、ばあさんも死んじまって…今俺にできることは何なんだろうって」
そして克彦は姿勢を正すと、研一に向かって頭を下げた。
「うちの夏海を、信ちゃんの嫁さんにしてやってくれないかな」
しん、と全ての音がなりをひそめる。
キッチンにいた亜希子にもその声は聞こえていたようで、物音ひとつしない。
「なっ、何言ってんだよ。あんなバカ息子、なっちゃんにはもったいないだろ。しかもいい結婚話が来てるらしいじゃないか」
しどろもどろに研一が答えるも、
「信ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだ」と克彦は言い切った。


