「でも、よかったー。なっちゃんが信太郎のカノジョで」
そんな、と照れる夏海に恵麻は「かわいー!」と黄色い声を出した。
そして彼女自身がシーッと人差し指を立てて、弟の部屋の様子をうかがう。
何をしているのか、ゴソゴソと物音がする。
恵麻はうん、うんと満足げに頷くと、紅茶の入ったカップを両手で包んで静かに言った。
「信太郎ね、受験失敗して立ち直れないくらい落ち込んでるのかと思ったら、親に土下座して、もう一年浪人させてくれって。お父さんがいいって言うまで、何度も何度もお願いしますって顔をあげなかったんだって。お母さんが不思議がってた、あんなに根性のある子だったかしらって…」
そうだったんだ、夏海もカップの中で揺れる紅茶に視線を落とす。
彼の「本気」が夏海にもひしひしと伝わってくる。
「あいつ、いい加減なところもあるけど、やる時はやるから。信じてやってね。だてに信、っていう字がついてるわけじゃないから」
なんだかその言葉がおかしくて、あはは、と恵麻と夏海は声を出して笑った。
その笑い声が一段落すると、
「おらおら、どけよ」と信太郎が布団を抱えてリビングに戻ってきた。
「俺はここで寝ればいいんだろ?」
そう言って、ソファーに座る夏海の頭の上にわざと布団をおろした。
「何すんのよ」
「ナツはあっちの部屋で寝ろよ。一応ベッドのシーツも枕カバーも替えておきましたが、なにか?」


