駅の大きな時計は午後8時を少し過ぎている。
「遅くなっちゃったな。今から豊浜に帰るんだろ?」
「うん」
「ごめん、久々だったもんだから、ついつい必死になって遊んじゃったな」
フードコートで夏海持参の弁当を食べた後に、映画を観た。
それからゲームセンターのコインゲームに二人してはまってしまい、時間も経つのも忘れるほど夢中になってしまったのだ。
「いいの。すっごくおもしろかったんだから。それに今夜はお父さん、夜勤で家にいないし、一人でいてもつまんないから」
そう言って、夏海がバッグを持ち替えた時、見覚えのある人物が視界に入ってきた。
「あれって恵麻お姉ちゃんじゃない?」
キレイに波打つ髪をしきりにかきあげ、高いヒールの靴を完璧にはきこなしたスタイル抜群の女性が、颯爽と歩いていく。
そうだな、と振り返った彼が言う。
「恵麻!!」
雑踏の中でも充分に届くほどの大声で、信太郎は姉の名を呼んだ。
途端に恵麻はびくっと肩をふるわせたかと思うと、おびえたような表情で辺りを見回した。
そんな彼女の様子に、夏海も信太郎も顔を見合わせる。
「恵麻お姉ちゃん!」
次に夏海が声をかけ時には、先ほどの険しい顔は嘘のように消え、恵麻は人懐っこい笑みを浮かべて走り寄ってきた。
「やだー、なっちゃん!元気?仕事どう?」
矢継ぎ早に投げかける質問に答える暇を与えることなく、彼女は二人を見てニヤニヤしながら言った。
「なっちゃん、豊浜からわざわざ来てくれてるんだ。でもどこがいいの?こんなやつの」
「さぁー、どこだろう?」
夏海が小首をかしげながら答えると、信太郎が「悪かったな、こんなやつで」と彼女たちの頭を軽く小突いた。


