「そっか、あの信太郎がそんなことを」
夏海は鼻をすすると、無理に笑顔を作った。
「仕方ないよ、信ちゃんの言う通り、私が勉強したり試験受けたりするんじゃないもん。応援してるって言ったって、実際に何もしてあげられない」
「甘えてるんだよ、あいつは」
雅樹はクスクスと笑ったかと思うと、ふいに真顔になった。
「母さんから聞いたんだけど、なっちゃん、お見合いするの?」
なんて噂が広まるのが早い町なんだろう。
道でつまずいたことですら、町中が知っているのではないかと思ってしまう。
「お見合いだなんて、マーくんも古いなぁ」
そう言いながら、彼の肩を小突くも、雅樹の表情は真剣さを崩すことはなかった。
「で?どうするの?会うの?」
「……」
「なっちゃんのことだから、この際会ってみようかなって思ってるんだろ?」
彼女は黙っていた。
しかしその沈黙がかえって雅樹の言葉を肯定することになる。
「やっぱりね。そういうの、ヤケクソって言うって知ってた?」
「そんなんじゃないもん」
「いい?会うってなると相手は結婚前提って受け取るんじゃないかな」
「そんな…!結婚なんて…よく知らない人だし…」
夏海は下唇を噛む。
「じゃあ、よく知ってる俺となら結婚してくれる?」
「なっ…!」
見開いた瞳が雅樹をとらえる。
「嫌だろ?それも」
「そんなこと…」
よいしょ、と雅樹は立ち上がるとうなり声を上げながら伸びをした。
「結局はさ、なっちゃんは信太郎じゃなきゃダメなんだろ?」
「……」
「他のやつなんて眼中にない。それなのに、気の進まないお見合いっていうつまんないことして気を紛らわせようなんて、バカバカしいと思わない?」
ね?と彼は夏海に微笑みかけた。


