その日、夏海は仕事中もかばんに入った携帯が気になって仕方なかった。
ちらちらと何度もバッグに目をやっていると、50代の課長が
「佐々倉さん、ホワイトデーはまだ1週後だよ。気が早いなぁ」とからかった。
そんなんじゃありません、と言いつつも、早く昼休みが来ないかと時計の針の進む遅さにイライラした。
いつもはもっと駆け足で過ぎ去っていく時間が、今日に限っては遅い、遅すぎる。
やっとのことで時計の針が12時半のゴールテープを切った。
「お昼休憩に入ります」
12時半、夏海はバッグを手に走って外に出た。
携帯を開く手が、寒さと緊張で震えている。
「あれ?」
着信も、新着メールの表示もない。
センターに問い合わせてみる。
それでも夏海へのメールはなかった。
確か、K大の合格発表は正午だと言っていた。・
ネットでも開示するから、自宅のパソコンから見ると彼は言っていたのに。
嫌な予感がした。
しかし、すぐに彼女はかぶりを振った。
きっとおばさんと大喜びして騒いでるんだ、だから自分への連絡を忘れてるんだ、そう考え直した。
それとも、大学ホームページにアクセスが殺到して、まだ見ることができないのかもしれない、そんなふうに思おうとした。
いずれにせよ、自分から信太郎に電話をすることなんてできない。
夏海は湧き上がってくる不安を必死に打ち消そうとした。
お弁当を食べることも忘れて、彼女は携帯電話を握りしめ、祈り続けた。


