「それに私、好きな人いるから。その人以外に考えられない」
「信ちゃん、か?」
間を置かずに返ってきたその名前に、夏海は一瞬たじろぐも「うん」と頷いた。
「…そうか」
克彦の顔が複雑な表情を呈する。
夏海にはそれがどんな意味なのかよくわからなかった。
父親というものは、娘の恋人に対してこのような反応をするものなのだろうか。
母か祖母がいてくれたなら、うまくこの間を取り持ってくれただろうに。
父と娘、そのふたりの間に「信太郎」という青年が入ってくるのだから、克彦は微妙な心境になるのは仕方がないことは夏海自身もわかっているつもりだった。
「もうすぐ合格発表じゃないのか?いつ?」
壁にかけたカレンダーを見ながら、克彦がポツリと言った。
「3月7日だよ」
「今年は受かってるといいな」
「絶対大丈夫。信ちゃん、すっごい頑張ってたもん」
「そうだな、あの信ちゃんが、おまえと会うのも我慢して勉強してたんだもんなぁ」
そう言うと、彼はそそくさと逃げるように部屋を出ていく。
恥ずかしさのあまり、夏海は真っ赤な顔をして声をあげた。
「お父さん!一言多い!」


