夏海がその知らせを受けたのは、職場での昼休みだった。
午前中に何度か携帯が鳴ったが出ることができず、メールでその内容を知ることになった。
嬉しくて寒さの中、コートを着るのも忘れて外の非常階段の踊り場で電話をかけた。
「信ちゃん、おめでとう!センターの点数、ボーダー超えたんでしょ?やったね!ほんとにやったね!」
喜びのあまり、しきりに飛び跳ねると、カン、カンとヒールが錆びた鉄の踊り場を打つ。
信太郎の声を弾んでいた。
「あとは2次試験だね。風邪なんかひかないようにしてよね」
電話を切っても、嬉しさのあまり夏海はひとり、何度もその場で跳ねた。
「もうすぐ、もうすぐだから」
何年かぶりに彼女はお雛さまを出した。
なぜか心がウキウキして、仕事が休みの日はじっとしていられなかったのだ。
ひな祭が明後日だというのに、遅くなってごめんね、彼女はそう人形に話しかけた。
お内裏さまとお雛さまだけの小振りのショーケースに入ったものだったが、置いておくだけで部屋が一気に華やいだ。
「おっ、お雛さまか。早めに片付けないと、嫁にいくのが遅くなるぞ」
父の克彦が横から口をはさんだ。
「出したそばから、つまんないこと言わないでよ」
夏海は丁寧にガラスの埃を拭き取っていく。
そんな娘の後ろ姿に克彦は重たい口を開いた。
「町長さんから何回も連絡があって、息子さんと会うだけでも会ってくれないかって…」
ぴたりと彼女の手が止まる。
「断ったでしょ、何度も言わせないでよ」
「だけど、町長には職場でもいろいろ世話になることもあるだろう。それに地主だ、おまえだって一生困らずに…」
「古いってば!お父さん古い!今時そんなことに魅力を感じる女の子なんていないよ」
振り返った娘の顔を見て、克彦はああ、妻にそっくりだ、と思った。


