月に一度のペースで信太郎は夏海に会った。
会う度に魅力的になっていく彼女に、苛立ちのようなものを感じることが多くなった。
自分だけが置いていかれるような気がする。
学生でも社会人でもない、宙ぶらりんな浪人生の自分と、果たして夏海は付き合っていてもよいのだろうか、そんな考えがだんだん大きくなっていった。
そして電話を通して聞こえる彼女の声が、とても遠くに感じるようになり、不安でたまらなくなった。
「ナツ。会いたい」
センター試験まであと1ヶ月を切った頃、信太郎はとうとうたまらずしぼりだすように言った。
息を呑むような夏海の気配のあと、しばらくの沈黙が流れた。
「信ちゃん…」
電話口の向こうで、彼女が困った顔をしているのが目に浮かぶ。
「ああ、くそっ!何言ってんだよ、俺。ごめん、忘れて」
「…信ちゃん」
「もうだめだよ、こんなんじゃ」
彼は頭を抱えた。
そして、プレッシャーに押し潰されそうだ、と呟いた。
「今週末、私がそっちに行くから。それまで待ってて」
その夜、信太郎は夏海とつながった携帯を握ったまま眠った。
夏海の息遣いが聞こえる、それだけで少し安心した。
明け方目を覚ますと、携帯はまだ夏海と繋がったままだった。
切らずにいてくれたことに、ますます愛しさがこみあげる。
彼は耳をすませた。
かすかに聞こえるゆっくりとした寝息。
信太郎は再び目を閉じた。


