姉の恵麻のマンションに戻った信太郎はまっすぐ机に向かった。
夏海に会って、エネルギーの補充をするつもりだったのに、かえって落ち込んでしまった。
次はいつ会えるのだろう。
会わないと不安になる。
彼女は何も言わなかったが、夏海を嫁に欲しいという申し出が何件かあったのだ、と連休に実家に帰った時に、母の亜希子が言っていた。
上は32歳から、下は23歳まで、中には町長の息子もいるという。
役場で町中の人と接するなかで、彼女の人柄がかわれたのだろう。
「さすがなっちゃんよね。気だてはいいし、美人だし、料理も裁縫も完璧だもんね」
亜希子が、まるで自分の娘のことを自慢するように話していたことを思い出す。
「ナツはまだ19なんだぞ、結婚なんて早すぎだろ。何時代だよ。ったく古くさいんだよ、この町は」
動揺を悟られまいと、信太郎はあえて無愛想に言った。
「なーに言ってんのよ。女の子はね、早く素敵な人に巡り会って、結婚して温かな家庭を作ることが幸せにつながるんだから」
田舎特有の考え方とでもいうのだろうか、豊浜のたいていのオトナは亜希子みたいなことを言う。
高校を出た女の子はいつでも結婚する資格がある、そんな感じだ。
こんな小さな町で生きていくのに、学歴なんて全く関係ないのだ。
だから医学部に進学した雅樹は町一番の有名人だし、大学を目指してわざわざ浪人している信太郎も、ある意味有名だ。
必ず来年はK大に合格しなければならない。
夏海をとられてしまいそうで怖い。
信太郎は何度も顔を撫でた。
やるしかないのだ、今の自分には死にものぐるいで勉強するしかないのだ。
ふと今日の夏海のヘアスタイルを思い出し、携帯で写真を撮っておけばよかったな、と彼は後悔した。


