その後も彼は夏海のヘアスタイルには一度も触れてこなかった。
一抹の寂しさを覚えながらも、勉強でそれどころじゃないのだ、と自分に言い聞かせ、彼女は彼と過ごす一瞬一瞬を想った。
いつもそうだ。
幸せな楽しい時はすぐに流れていく。
つい時計の針がイジワルをしているのでは、と子どもじみたことを思ってしまう。
豊浜行きの最終電車。
「今度いつ会える?」
お互いがそんな言葉を我慢していた。
もうすぐだから。
もうすぐ心おきなく会えるから…
発車を告げるアナウンスが流れる。
「体に気をつけて…」
「ナツもな」
分厚い電車の扉が、がたつきながら彼らを隔てた。
信ちゃん…
夏海の唇がそう動いたのを見た信太郎が、優しく笑った。
そして、彼女と自分の頭を交互に指さしてから、オッケーサインを出す。
「髪、似合うじゃん」そう口が動いた。
ゆっくりと動き出す電車。
面と向かって言いなさいよね、夏海は頬を膨らませた。
後方に流れていく大好きな人。
彼女は心の中で何度も呟いた。
もうすぐだから。
もうすぐあの人と夜空を埋め尽くすような星たちを見に行けるから…


