「愛してる」、その続きを君に



役場を出るのがだいたい午後6時。


夏海は自転車で買い物に出かけてから帰宅する。


克彦がいるときもあれば、夜勤でいない時もあり、そういう日の夏海ひとりの夕食はどうしても適当になりがちだ。


特に夜は怖い。


田舎とはいえ、家に女ただ一人でいるのだから、落ち着かない。


ちょっとした柱の軋む音や、冷蔵庫のモーターのうなる音に何度ビクッと体を強ばらせたことか。


そんな時は、不思議と信太郎から連絡があった。


「大丈夫か?」というストレートな言葉は言わないが、彼なりに心配してくれていることはよく伝わってきた。


短い会話であったが、それが夏海の唯一の楽しみとなっていた。



豊浜から電車で1時間ほどのA市に信太郎の通う予備校がある。


去年まで通っていた高校とそんなに離れていない。


しかし、彼は通学の時間を勉強に充てたいと、豊浜の実家を飛び出して社会人の姉、恵麻(えま)のマンションに居候している。


そこからだと、自転車でほんの数分の距離だという。


夏海にとっても、信太郎にとっても、お互いの顔をこんなに長い間見ないということは初めての経験だった。



時折、雅樹も夏海にメールをくれた。


まだ1年生だから専門的な勉強はしていない、だとか親が医者という学生が周りに多くて気後れしてしまうのだ、というものだった。


誰も知り合いのいない新しい生活に、雅樹も必死で慣れようとしているのがよくわかる。


そんな彼に夏海も毎回丁寧に返事を送った。