坂を撫でるように吹き下ろしてくる風に、夏海も信太郎もマフラーに顔を埋めた。
彼女も克彦と同様、センター試験の結果を訊いてはこない。
しかし、何を話していいものかお互いが探り合っているせいか、無言のままだった。
「…センター試験、K大のボーダーに届かなくってさ」
ふいに信太郎が呟くように言った。
彼女も「そっか」としか言えず、再び黙りこくってしまう。
「もう一年、頑張ろうと思うんだけど」
その言葉に夏海の足が止まる。
「浪人、ってこと?」
「どうしてもK大の工学部で宇宙工学を勉強したい」
彼の真剣な眼差しに夏海は何度か瞬くと、ゆっくりと頷いた。
「信ちゃんがそこまで頑張るなら、私も応援する」
「美星町(びせいちょう)に行くのが一年遅くなるぞ」
「いいよ、おばあちゃんになるまでに連れて行ってくれたら」
ふふっと彼女が笑うと、張り詰めていたものがふっと切れたように、信太郎の表情も緩んだ。
「それにしても信ちゃん、変わったね。すぐにあきらめなくなった」
二人は歩き出す。
「そうか?」
「うん、間違いなく変わったよ」
「まぁ、武ばぁにこっぴどく怒られたからな」
小さな声で彼は言う。
「え?何か言った?」
「別に」
信太郎は今にも雪が落ちてきそうな重たい空を見上げて、微かに笑った。
まるで武子に見てろよ、と言わんばかりの顔で。


