無事にセンター試験の2日間の日程が終了した。
自己採点の結果を学校に報告してきた信太郎は、まっすぐ家に帰ることなく、あるところに立ち寄った。
チャイムを鳴らすと、ひょっこり顔をだしたのは夏海ではなく克彦だった。
「おお、信ちゃん。元気か?夏海は今買い物に行っててな。もうすぐ帰ってくる頃だから、中で待ってろよ」と大きく戸を開いた。
「んじゃ、武ばぁに線香でもあげてやるかな」
「そうしてやってくれ」
線香の匂いが部屋中に漂う。
武子の遺影を見ながら、信太郎は手を合わせた。
彼が居間から出てくると、「お茶でも飲んでけよ」と克彦が慣れない手つきで急須に湯を入れていた。
「おっさん、いいって。ヤケドするって」
彼は危なっかしい手つきを見ながら慌てて言った。
「なーに、茶くらい淹れられるぞ、俺だって」と得意げな顔で克彦は湯呑みに茶を注いだ。
「しまった!お茶の葉を入れてなかった!」
「は?なんだよ、それ。ただの湯じゃん」
苦笑いの克彦は頭をかく。
彼は信太郎にセンター試験の結果を聞こうとはしなかった。
それがとてもありがたい。
「誰かと思ったら、信ちゃんじゃない」
冷たい風にさらされたのか、頬を赤く染めた夏海が両手に買い物袋を提げ、立っていた。
「ちょっと聞いてくれよ。おっさんさ、俺に湯をごちそうしてくれるんだってさ」
「湯?」
目を丸くして夏海は父の手元をのぞきこみ、なるほどね、と笑った。
「もう、私がするよ。ふたりともお茶?それともコーヒー?」


