「母さん!」
雅樹は母親を制すると、夏海に申し訳なさそうな顔をした。
彼女も大丈夫よ、と言わんばかりに笑顔を返した。
まぁ、いつものことだから、と気を取り直し、夏海は遥にも微笑む。
「ところで信太郎は?」
「まだ来ていないみたい。こんな大事な日に遅刻はないと思うんだけど」
笑うといつも以上に、白い息が宙に舞った。
「あ、シンタローだ!こらーシンタロー遅いぞ!」
遥が近付いてくる長身の男に向かって駆けだした。
「おー、遥。おっきくなったな」
そう言って頭を撫でるが、「子ども扱いしないでよ!」とその手を払われる。
「信ちゃん、おはよ」
無意識のうちに夏海は顔を赤らめた。
「おお、何?横断幕でも用意してくれたわけ?」
「するわけないじゃん、恥ずかしい」
雅樹も声を出して笑ったが、二人とも緊張しているのか、青白い顔をしてしきりに凍てついた手をカイロに押し当てていた。
そんな彼らに夏海は精一杯の笑顔を向ける。
「ふたりとも、いってらっしゃい。帰りもここまで迎えにくるから」


