「送ってくれて、ありがとね」
いつになく自然にそんな言葉が出た。
素直な気持ちだった。
「あ?まぁ、一応ナツも女だし」
「ほんっとにかわいくない言い方。私は素直にお礼言っただけなのに」
「素直?おまえにそんな言葉は似合わないぞ」
「言ったなーバカ太郎!」
夏海は信太郎の背中を思いっきり叩いた。
好きな人が恋人と別れた、そう聞けば誰しも期待せずにはいられない。
だがそのスキにつけいることは彼女にはどうもできそうにない。
彼が好き、それは今も昔も変わらない。
変わったのは彼らを取り巻く環境だ。
子どもから青年へ、そしてオトナへと差し掛かるにつれ、素直な気持ちは二の次になる。
夏海と信太郎の場合は特にそうだ。
長い間共に過ごしてきただけに素直になるには勇気がいる。
「ナツ?」
遅れがちな夏海を信太郎は振り返った。
立ち止まった二人の微妙な距離。
素直と強がりの紙一重の距離。
「信ちゃん、もうここまででいいよ。一人で帰れるから。ありがと」
「ここまで来たんだ、家まで…」
「いいの!」
むきになったように彼女は首を振った。
信太郎の困ったような、そして何か気に入らないことでも言ったのかと危惧する雰囲気が夏海にも伝わってきた。


