「ったく、騙されないからな。おまえがそれくらいのことで泣くかよ。ま、あのあと見事に俺フラれちゃってな」
え?と瞬きすることも忘れて、夏海は信太郎を見つめた。
「やっぱり今日のことが原因なんじゃないの?ごめん、私…」
「違うって。前からあんまりしっくりいってなかったんだ。ま、俺がテキトーな男だってことに気付いたんだろ。この時期になって進学するかも決まってないしな。なんせあいつ一流大学の教授の一人娘だからな」
そうなんだ、そう呟いたきり夏海はうつむいてしまった。
「家まで送るよ、待ってろ。鞄置いてくるから」
「あ、いいよ、大丈夫」
「待ってろ、すぐだから」
信太郎は玄関を開け、中に鞄を無造作に投げ入れた。
「寒くなったな」
夏海の家へ向かう途中、信太郎は腕組みをしながら身震いをした。
「あたし冷え性なのにどうしよう」
彼はまるで女の口調で言う。
「おかまみたいー」と夏海も笑って返す。
「ばぁか、おまえの真似だよ」
「私、冷え性じゃないもん」
それをきっかけに信太郎の後ろを歩いていた夏海は、彼に並んだ。
そっとその横顔を盗み見る。
いつもはビシッと立っている前髪が今日は力なく額にかかり、風になびいていた。
そんな彼はいつもより幼く見える。
彼女と別れたことがやはりこたえているにちがいない、夏海は胸が痛くなった。


