豊浜駅に着くと、辺りはもう真っ暗だった。
今日はいろんなことがあった、そう思ってどっと疲れが出る。
実際には一つしかなかったのに、それに費やしたエネルギーがあまりに大きくて、いろんなこと、とつい思ってしまう。
信太郎は長い足を引きずるようにして、家まで続くなだらかな坂道を上がった。
途中、夏海の家の前を通るも玄関の外灯だけが付き、家の中は暗い。
雅樹の家に例のプリンでも持って行ったのかな、そう思い、速度を緩めた足をまた前に出す。
道沿いの民家からは夕食の支度だろう、いい匂いが漂い、信太郎の空腹中枢を刺激した。
あ、これは煮魚だな、あっちは肉じゃがだ、それにこっちは中華かな…想像を膨らませながら家までたどり着くと、門扉にもたれる人影があった。
信太郎の足音に気付くと、その人物はためらいがちに口を開いた。
「おかえり。プリン、おばさんに渡しておいたから」
制服姿の夏海だった。
外灯に浮かび上がったその顔は申し訳なさでいっぱいだ。
「あの、ごめん。私のせいで…あの後彼女と仲直りできた?」
律儀なやつ、そう思って彼は笑った。
「気にすんなって。それより寒いだろ、中に入れよ」
夏海は首を横に振ると、よかった、と強ばった表情を崩し、「これからはあんまり話しかけないようにするから」と付け加えた。
そんな彼女に信太郎の胸が軋む。
「おまえさ、自分のことをどれだけいい女だと思ってるんだよ。勘違いも甚だしい」
「そりゃーあちらが比べものにならないくらいキレイな人だということは確かだけど」
「だろ?向こうだっていちいちおまえみたいなのを相手にするかよ。眼中にないって」
「そうだけど、ちょっと言い過ぎじゃない?」
「そうか?」
「うん、ちょっと傷ついた」
夏海は今にも泣き出しそうな顔をしたかと思うと、焦る信太郎を見てペロリと舌を出した。


