家に戻ってきた武子を近所や親戚が拝みにやってきた。
その対応に追われやっと一息ついたところで、信太郎と雅樹が訪ねてきてくれたのだ。
「ほら、ナツ。俺たちも武ばぁに話したいことあるしさ。おまえは休めよ」
二の腕をつかまれ、夏海は信太郎に半ば強引に立たされた。
彼は夏海の自室のドアを開けると入るように促した。
「おっさんは葬儀屋と打ち合わせ中だから、何かあったら俺か雅樹を呼べばいい。武ばぁのとこにいるから」
「待って、信ちゃん」
夏海は彼の袖を引っ張った。
「ちょっとでいいから、一緒にいて」
どうしたものか、彼が悩んでいると「お願い」と夏海が言った。
「…わかったよ」
信太郎はドアを開けたまま、夏海の部屋に足を踏み入れた。
ベッドに腰掛けると彼女は意外にも笑った。
「今日は学校さぼらせちゃったね、ごめん」
「まぁ、行きたくなかったしな」
「またそんな言い方をする」
信太郎は勉強机に並べられた参考書を手に取り、ペラペラとめくった。
「ほんとだって。授業もついていけないぐらいだよ」
「困っちゃうね、そんなんだと」
力なくも笑っていた夏海が、急に真顔になった。
「私もこれから困っちゃうな…」
うつむき、その小さな肩が小刻みに震えている。
信太郎は参考書をパタンと閉じると、言った。
「大丈夫だよ」
その言葉にはっとしたように彼女は顔を上げる。
「武ばぁが見守ってくれてるって。あの人しつこいからさ、おまえが幸せになるまで成仏しないつもりだな、きっと」
彼は夏海の頭に手を置き、くしゃくしゃとかき回すと
「できるだけ早く、成仏させてやれよ」と言って部屋から出て行った。
夏海は目を閉じた。
今ここに彼がいてくれてどんなに心強いか、と彼女は思う。
ふと、病院で抱きしめてくれた人物と信太郎が重なり合った。
『大丈夫だから…』


