赤くて丸い太陽が海を染めてゆく。
東の空は濃い紫の雲が漂っていて、今がちょうど昼と夜の狭間なんだと思い知らされる。
夏海は夢の中にいるような感覚だった。
体がふわふわして、まるで持ち主の手を離れ、風に漂う風船になったようだ。
行き先もわからず、鳥についばまれて割れてしまうかもしれない。
高い鉄塔にひっかかって、しぼんでゆくのを待つだけなのかもしれない、そんな途方に暮れた風船。
そんな事を思っていると、ふいに力強い腕が肩をつかんだ。
「ふらふらして、大丈夫か」
うつろな目でその声の主を振り返る。
「信ちゃん…それにマーくんも」
「なっちゃん、少し休んだほうがいいよ」
雅樹がそっと彼女の肩に手を置いた。
「でも、おばあちゃんが寂しがるから…」
横たわる武子は冷たく、顔色はどこまでも白かった。
「武ばぁには俺がついてるよ」
雅樹が優しく微笑んだ。
武子は今朝再出血を起こし、血腫を除去する手術が行われたがとうとう目を開けることはなかったのだ。


