雅樹と信太郎を残して駅を飛び出した夏海は、朝日で眩しい病院までの道のりを急いだ。
ロビーに飛び込むようにして入った夏海を待っていたのは父だった。
「お父さん…」息を弾ませる夏海の額には大粒の汗がにじんでいた。
そんな彼女を克彦が目を真っ赤にして抱きしめたのだった。
それが一体何を意味するのか、すぐに彼女はわかった。
「おばあちゃん!」
そう叫んで克彦の手を振り払い、武子がいた病室に走り出した。
「嘘!嫌!」
そこに大好きなおばあちゃんはいる。
目を覚まして「なっちゃん、心配かけたね」って微笑んでくれる。
克彦が「夏海!落ち着きなさい!」と何度も腕をつかんだが、必死に振り払った。
どうして邪魔をするのか、おばあちゃんに会いたいだけなのに。
死んだなんて、そんなの嘘だ。
「おばあちゃん!!」
克彦の手を逃れた彼女を、違う誰かが抱きしめた。
父ではない広くてあたたかい胸と腕が、無言で夏海を強く強く抱きしめた。
その人物の鼓動がやけに早く、息が乱れていたのを彼女はおぼろげながら覚えている。
そのぬくもりが彼女を落ち着かせるとともに、現実に引き戻していく。
「おばあちゃ…いやだよ、なんで…」
誰ともわからぬ胸で夏海は泣いた。
声が枯れるまで泣いていると、その声の主が言った。
「大丈夫だ」、と。
「大丈夫だから」、と。


