信太郎と雅樹は彼女を気にしつつも、電車の扉に近づいた。
ガタガタとドアが開いて、人が乗り込むまでの刹那の静寂。
クリアに聞こえる父の声に、携帯を持つ夏海の手が震えた。
「電話何だったの?」
先に乗り込んだ雅樹たちが夏海を振り返ると、もうそこには彼女の姿はなかった。
「おい!」
彼らが慌てて電車を飛び降りると同時に、再び大きな音を立て扉が閉まった。
「ナツ!!」
「危ないよ!」
夏海は下りたままの遮断機をくぐりぬける。
動き出したばかりの電車が、長い警笛を鳴らした。
「あのバカ!」
信太郎たちも後を追いかけるが、電車は目の前の踏切をノロノロと通過していく。
「ったく、早く行けよ!ポンコツが!」
電車に悪態をつきながら、信太郎はせわしなく足踏みした。
やっとのことで電車が通り過ぎると、彼らは遮断機が上がるのを待たずして夏海の後を追いかけ走り出した。
「なっちゃん!」
「どこ行くんだよ!」


