「愛してる」、その続きを君に



真剣な信太郎の顔を見て、武子は「ほらね、よくあの子のことをわかってるじゃないか」と得意げな顔をした。


「ほら、早く行こう」


また歩みを進める彼の背中に武子はまた言った。


「信ちゃん、頼むよ。あんただって、なっちゃんのこと好きでいてくれてるんだろ?あたしゃあ知ってんだから」


「おい、もうボケてんのかよ」


「あんたがなっちゃんを見る時の目、あれは好きで好きで仕方ないのに、我慢している目だよ。高校、あの子たちと別のところにしたのは…マーくんに遠慮してかい?」


恐ろしいほどの観察力と洞察力だと彼は思う。


「もう、勘弁してくれよ。俺さこの後カノジョとデートなんだから。早く武ばぁとこの荷物を送り届けないと、電車に乗り遅れて待ち合わせに遅刻なんだって」


その動揺を隠すように信太郎は言うと、突然武子が怒鳴った。


「逃げるな、バカタレ!好きな女に好きの一言も言えないのか!なんでもかんでもあきらめるんじゃないよ!このスットコドッコイ!」


再び武子を振り返った信太郎はムッとしていたにもかかわらず、わざとおどけて「ほー、バカタレにスットコドッコイですか」と返した。


その言い方が武子を余計に苛立たせたようだった。


「後になってやっぱりなっちゃんと一緒になりたいって言ったって、なっちゃんがおまえじゃなきゃダメなんだって言ったって、絶対にあたしは認めないからね!克彦がいいって言っても、この武ばぁだけは絶対に許さん!夏海はおまえみたいな臆病な男には絶対にやらん!」


そこら中に響く声で、彼女は一気にまくし立てた。


誰も通っていなかったからいいものの、こんなところで大声を張り上げて、駐在に通報でもされたら面倒だ。


垂れたまぶたの下から、ぎらぎらした武子の目が信太郎をにらんでいる。