「朝比奈…さん…?」

「味がね、全然違うんだ。
いつものひなちゃんの味じゃ…ない。」

「…っ…!」


…私の変化は〝味〟を通じてお客様に伝わってしまっている。
―――だから倉持さんは私をケーキから、そしてシュークリームから遠ざけようとした…。


パティシエは心を込めて、スイーツを作る。
その心を、お客様は確かに感じ取っている。
目の前にいる朝比奈さんは…より、敏感に。


「ねぇ、ひなちゃん。」

「す…すみませんっ…私っ…。」


…何を謝っているんだろう。
謝ったって朝比奈さんには何の事だか全然分からないのに。


でも、どうしてもこの場をやり過ごしたい。


「…朝比奈さんを笑顔に出来ない『ホワイトスノー』でごめんなさいっ…。」


大きな声を出したわけではないのに、私の声がひどく響く。
ふと視線を遠くに飛ばせば、周りには誰もいない。


いつの間にか私と朝比奈さんだけになったフロア。
時間は7時を少し越えていた。