ペラぺラ、饒舌な舌が話終わって言う通りしくしくと泣き真似をする弥生に唖然とする。そして背中にタラリと流れる嫌な汗。
こいつ…、もしかしてっ…!!
……いやいやいや、でもどこで?出入口の近くにいたし、気づかないとか——いや、でもこういうことには頭が回る弥生なら上手く隠れて盗み聞き、なんてたぶん朝飯前だろうし、それに……全部、知っていた。
断固として話したくなかった理向あみとのことを。
怖い。なにこいつマジで恐ろしいんだけど。
どこでなにを見られているかわからない。一種のストーカーだろこれ。むしろストーカーより質が悪いかもしれない。おい、誰か警察呼べ。110番だ。ここに犯罪者がいる。
そんな犯罪者は、お前俳優になれんじゃねぇのっていう演技力で未だ嘘泣き続行中。
それに騙される、ただ俺達の傍を通りがかっただけで弥生に捕まった俺達のクラスの委員長。
真っ直ぐ伸びた長い黒髪に眼鏡が印象的な委員長は「え、え、っと…大丈夫ですか…?」心配なんかしなくていいのにおどおどと細い声で弥生に言う。
弥生は弥生でそれに気をよくしたのか、
「大丈夫じゃないよぉ。ちょっと女の子に死ねとか殺すとか平気で言えちゃう神経どうにかなってるこの男になんか言ってやってよ小雪ちゃん。俺無理ぃ…。」
引くー…。なんて、嘘だとしても瞳には本物の涙を浮かべた弥生がすでに困っている委員長をさらに困らせる。
委員長に向けるときは隠すけど、俺に向けるときの表情は心底楽しそうだ。
『(てっめえ…。)』
はっきりと黒が出た。確実に弥生はあのとき屋上のどこかにいた。くっそ、マジで最悪。なんっでこんなにツイてねぇの、今日。


