「——あみの言うこと聞いてくれる?」
それしか方法はないよとでも付け足すような言いぐさで、くすり、今度は勝ち誇った表情で理向あみは俺を見上げる。
ころころと変わる表情は殆ど俺の癇に障るものばかり。こいつといたら治まるものもきっと治まらないと思う。
つーか、てめえの言うこと聞くぐらいならまだツガイに殴られた方がよっぽどましだバカヤロー。
携帯とかもう返ってこなくていいわ。
『は?誰が。どーせ彼氏になってとか俺とヤりてぇだけの言うこと聞いてだろ。お前とヤるぐれぇなら他の女とヤるわ。』
はっ、と鼻を鳴らして、わざと小馬鹿にした物言いでそう言ってやる。
理向あみは図星だったのか知んねぇけどカッと目を見開いて、だけどすぐ傷ついた、みたいな表情(かお)をして俺から目を逸らす。
どうせその表情(かお)も嘘だろうが。
さっき見せた泣き顔が嘘だと言われた俺は弱いところを見せられたって、それが本当だとは信じない。またあとで"うそぴょーん"とか言うに決まってる。
勝手にやってろよクソ女。
俯いてからなにも言わない理向あみに俺もそれからなにも言わずここを立ち去ろうと理向あみの横を通りすぎる。
と。
「…っけ、携帯は!?」
俺が立ち去るのに気づいたのか焦ったように声を上げた理向あみに俺は無表情で振り返る。
『いらねー。捨てれば?』
それだけ言うと今度こそ俺は校内へと続くドアノブに手をかけ、ここ——屋上をあとにした。


