鼓膜を擽ったのは、語尾に音符でもつきそうなほど楽しそうに跳ねた、けれど悪女みたいに艶やかに紡がれたソプラノ。
それに"あ゙!?"と柄悪くすごみを利かせて出そうになった声は、口内で通行止めをくらって。
て、てか、はい!?
ただ今俺、外の空気を吸収できる器官は鼻のみ。口はなぜだか最低最悪の浮気性小悪魔バカ女の唇に塞ぎ込まれている状態。
軽く触れるだけ、なんてそんなフレンチなものじゃない。
がっつり、空気も出かかった言葉も丸ごと呑み込むようにグロスが乗ったそれで俺のを塞ぐこいつに今すぐにでも殺っちゃいたいぐらいの殺意。
『(な…っ、にすんだ殺す!)』
心の中で悪態吐いて、沸々わき出る怒りをそのまま俺の胸ぐら掴んで背伸びしている理向あみの肩を押す手に露にする。
肩を押されて離れた理向あみは一瞬驚いたように瞬いたけど、すぐにクスリとまた唇に弧を描いた。
俺はチッと舌打って、唇についたグロスを乱雑に拭う。くそ、ベタベタうぜぇ。
「あー!ちょっとぉ、せっかくチュウしてあげたのに拭くとかひっどーっ。」
『うるせぇ死ね、今すぐ死ね。てか俺が殺す。』
「女の子に向かって死ねとかサイテー。」
『ざけんな、最低なのはてめえだろうが。なんなのお前。俺のことおちょくってんの?』
「うん。」
『……は?』
「騙されたでしょ。」


