『お、ま、』
「どしたー?」
『ふっざけ、』
「——許、さねぇ…。風吹翼。」
『あ!?……あ、』
忘れてた…。
理向あみに対しての怒りですっぽん!と頭の中から完全に抜けていた存在。理向あみの"本当"の彼氏、ツガイ。
『(面倒くせぇのがもう一人いたよ~…。)』
ツガイは怒気を孕んだ瞳でギッと鋭く睨んでくる。ただ、その瞳には怒りだけではなく涙がうっすらと浮かんでいて。
その、涙の意味に。
こいつ——と、思わされたけどそれも一瞬。「ふざけんなああああ!!」声を上げながら拳を振り上げてきたツガイにはっとした。
「…っう、」
『悪ぃけど。お前には殴られねぇよ。』
目の前で腹を抱えて蹲るツガイ。一発目は顔。次は腹。ツガイの攻撃は受けず拳と足をくれてやった俺。
こいつの理向あみに対する気持ちは本物だって分かった。
理向あみとは違い、ツガイはマジで理向あみに惚れてたんだって。
だから本気でキレて泣いて。俺に拳を向けてきて。それを打ち負かしてしまった俺は少し悪いことしたなと罪悪感。
…でも。
俺にだってプライドがある。簡単に殴らせらんねぇんだ。


