§魂呼びの桜§ 【平安編】

翌日、姫が目覚めたのは昼過ぎ。


その頃には継母は、もう数人の女房を引き連れて湯治へと繰り出していた。



まあ、起こしてくださればよいものを……



姫は女房にそう愚痴を言ったものの、本当はたいして気にはしていなかった。


昨夜のことばかりが頭を占めていたから。


あの公達のことばかり考えてしまう。



まあ、扇を無くされたのですか



女房が責めるように言った。



ええ

眠れず、そぞろ歩きをしている内に、どこかで落としてしまったらしいの……



姫はそう答えた。



まあ、予備の扇はありますから良いですが

お一人での夜歩きなど、あぶのうございますわ

もう、おやめくださいましね



女房は本当に姫の身を案じているのだ。