§魂呼びの桜§ 【平安編】

高鳴る胸をどうすることもできず、姫はずっとその場に佇んでいた。


胸に大切な扇を押し戴いたまま……。


この香が、あの方を知る唯一のしるべ。


だから何があっても、この扇だけは無くしてはならない。


いつの間にか月が天頂に達していた。


姫は、公達の去って行った林をじっと見つめた。


もう戻って来るはずもないのに。


心に刻まれた面影を追うように、ただ一心に彼の去ったほうを見ていた。