§魂呼びの桜§ 【平安編】

また一歩、公達は姫に近付いた。


姫はさらに袂に顔をうずめた。



都で、お会いするのを楽しみにしております。

これを私の形見に……



はっと気付いて、姫は手にした檜扇を差し出した。


公達はそれをそっと受け取る。



この檜扇をよすがに、あなたと再びお会いする日をお待ちしております……



品の良い香の香りが遠のいて行く。


姫は急いで顔を上げた。


そこにはもう誰もいなかった。


そよ風がさわさわと木の葉を揺らしていく。


その風は、姫のほてった頬も撫でていった。


足下には扇が置いてあり、姫はそれを拾い上げた。


公達の衣に焚き染められていた香と同じ香り。



都で…………



わたくしはお待ちしていても良いのでしょうか。


あなたさまがお忍びくださるのをお待ちしていても?