§魂呼びの桜§ 【平安編】

突然掛けられた言葉に、姫は身を強張らせた。


僧侶ではない。


その衣からは、芳しい香の香りが漂ってくる。


寺には他にも宿泊客がいると聞いているから、きっとそれなのだろう。


その人が木陰から現れた。



わたくしは月読みの姫ではありませぬ

あなたこそ、月の精でいらっしゃいますね



姫は思わず声に出してそう言っていた。


その人は小さく笑ったようだった。


月光が、その人を照らす。



綺麗な方……



公達を綺麗と思うのもいかがかと思ったが、その形容が一番ふさわしかったのだ。


切れ長の瞳に、すっと通った鼻筋、微かに笑みを湛えた口元……。


父とも、弟とも違う。


生身の殿方が、そこにいた。