§魂呼びの桜§ 【平安編】

牛車が揺れる。


京を出てどのくらいか。


もう随分経った気がする。



母上様



同じ女車に乗る母に、姫は気遣わしげに声を掛けた。


フスマ
衾の上に座り、気だるげに脇息に肘を置く母が、姫を見た。



ご気分が優れませぬか
少し休みましょう



けれど母は頭(かぶり)を振った。



でも…………




良いのですよ、ひめ

このまま進んで、はよう吉野に着いたほうが良いのです



姫はそれ以上何も言う事ができなかった。


いつも、母上が一番正しいのだ。


そう思っていたから。