§魂呼びの桜§ 【平安編】






ふいに風もないのに枝が揺れ、まだ散る時期でないのに、花びらが一斉に空に舞った。



舞い落ちる花びらを避けようともせず、藤壺は桜を睨んでいる。





そう、お前さえいなければ、良かったのだ




つっと視線を下げ、自分の手を見た。


そこにはいつの間にか、鉈(ナタ)が握られていたのだ。




オマエサエイナケレバ……‥‥‥




彼女の行く手を阻むように、散る花びらの量が増した。


しかし、藤壷は臆することなく、鉈を振り下ろす。




ギャッ 




まるで悲鳴のような音がして、桜の幹に鉈が食い込んだ。


すぐさま藤壷は鉈を引き抜き、また振り下ろす。


そのたびに、桜は悲鳴を上げた。


そして、真っ赤な樹液が周囲に飛び散る。



鮮血のような樹液だった。



その樹液は霧となって宙を覆っていき、空だけでなく、藤壷の周囲までもが真っ赤になっていく。