§魂呼びの桜§ 【平安編】

そのかいあって、このところ母は床に起き上がれるくらいまで回復してきている。


その母が、湯治に行くというのか……。


吉野にある湯治場が候補に上がっているという。



吉野……

遠過ぎはしませぬか



姫は父に問うた



吉野は母上が幼い日を過ごした場所

やはり思い入れある地が、落ち着かれるのであろう

そなたが共に行ってくれれば、ご安心なさるに違いない



父のその言葉に、姫はしばらく熟考していた。


几帳の向こうで、父がじっと待っている。


そして決心したように顔を上げた。



わかりました

参りましょう

母上さまのために……







この時姫は、運命の扉を開けたのだーーーーー