「この国の窮状は、そなたも知っての通りだ!
 ここで……こんな所で、雨神への供物を汚してどうする!
 一度汚れれば、三百日間王家には、迎え入れられないのだ!
 たった、三百日。
 この女の命を惜しんで、なんとする!
 しかし、あと三百日、雨が一滴も降らなければ、この国は……いや、大陸全土が、乾いて飢えて、死ぬ!」

 言って、王は、肩で大きく息をした。

「そなたは、この娘一人を生かして、多くの国民を殺すのだ!!」


 ……断罪。


 王が渾身で叫んだ言葉は、まさしくそれだった。

 多少声が裏返っていようが、かまわず。

 この場に集まった、近衛兵、侍従、下働きに至るまで、全部に聞こえるように大声を出した。

 そして、己が『正義』を振りかざして、叫ぶ。

「己の欲望を優先し、国民に死を賜る次代の王など、我が国に要らぬ。
 我は、我に与えられた権限により、キアーロ・ディ・ルーナをこの場で裁く!
 王妃候補への不義密通!
 雨神への不敬、冒涜(ぼうとく)罪!
 国民への渇死による大量虐殺未遂……!!」

 他にも。

 他にも。

 キアーロ自身が身に覚えのあるものも、無いものも。

 山ほどの罪をなすりつけて、虚勢を張る王に、キアーロは、ふん、と鼻先でほほ笑んで、冷たい視線を投げた。