「特に、何も。
 幼なじみに、挨拶をしに来ただけですが」

 少しばかり、念入りにしすぎましたが?

 ……と。

 無表情に見え透いたことを言い放つキアーロに、王は、感情も顕に、ギリ、と奥歯を噛んだ。

 王は、自分がキアーロが成人するまでのつなぎ、でしかないことをよく知っていた。

 雷帝の末裔という、王家の証。

 雷神の扉を開くという技は、彼の体内に流れる血に、あったものの、所詮傍流でしかなく。

 一国を動かす、政治的手腕でさえ、凡庸で輝くモノはなかった。

 唯一、キアーロに長じた年齢においても一応。

 彼の、義理の父という立場であるものの。

 親、と名乗るには、若すぎた。

 だから。

 王は、憎しみよりも、焦りに近い色で、キアーロに詰め寄ったのだ。

「これ、をあくまでも挨拶と申すのか?」

 王が手を上げれば、取り囲んだ近衛の兵が、キアーロに向かって、槍を構える。

 武器を向ける相手が、王より身分の高い王子であろうとも。

 イデアーレ王国の現在の権力者は……自分たちの主は、王だったから。

 内心の動揺を抑えるように訓練された近衛兵は、無表情だ。