カツカツとヒール音を立てて行けば、“ありがとうございました”と一変していた店員の声高なあいさつに送られることとなった。


これは間違いなく私のすぐ目の前を歩いて行く、冷淡なヤツのせいだろう。
まったく、どこまでも嫌味だわ。



「…車はどうなさったんですか」

「ああ、車ではないので」

そのコンビニを出て直ぐにレクサスが待ち構えているという予想が外れ、なおもスタスタと歩くヤツに疑問が増す。


だいたい帰宅方向と真逆に歩いている現在。
ヤツの手中にある商品は諦めて引き返すべきではないか…?



「たまには食事でもしましょう」

「…、」


「婚約者の食生活があまりに悲惨ですからね」

そんな考えを駆け巡らせていたところ、前方を歩くアルマーニ男の発言に驚嘆するばかり。


何より私を悲惨と言うこの男の言い分だと、全国のコンビニ愛好者を敵に回してもおかしくない気がする。


これでも自炊が基本なのだが、どうしても残業が嵩んでしまう時期は健康よりも睡眠重視で、仕事を優先するのは社会人として仕方ない。


それは良いとして、何なのよ。どうしてこんな疲れている時に、苦笑まじりで僅かな優しさなど見せるのよ?


いつも通りビシバシ人を突いて、淡々と話すのがロボット男でしょうが。どうして今日に限って、弱っている私に優しさをくれるの?