名古屋駅の改札を過ぎて、そそくさとロータリー付近で乗り込んだタクシーの車内から眺める風景は、やはり私が居た頃と街並みが変わっていた。


その近代的ビルたちを尻目に気づいたのは、時の流れの速さと自身が久しぶりに此処へ訪れたという事実だ。



駅からほどなく走れば、目と鼻の先ともいえる目的地へ差し掛かった。その住宅街の景色はさほど変化が見られず、通りすぎていく風景を懐かしいなと思える。


無言の中ようやく停車した所は名古屋の中心地に接する、閑静な住宅街に建つ日本家屋の住宅であった。


夜の賑やかさにも埋もれず、厳かであり堂々とした佇まいは圧巻ものだ。
それを前にして少しばかりの荷物とともに立てば、外観とは裏腹にほっと心が和んでしまう。


大きな門構えの隅に設置されているインターホンを人差し指で押したところ、応対どころかすぐに人が出て来る気配がした。


息急いでやって来てくれるその人の姿に、いつになく自然と笑みが零れていたのは当然のことだろう。



「おかえり、怜葉…」

「ただいま…」

新幹線に乗り込む直前、前触れもなく“今から帰る”と連絡したにもかかわらず。久しぶりの出迎えを、ゆっくり顔の横シワを作って笑顔でくれた人。


それは古きよき日本家屋とピッタリな着物姿がセンスの良さと上品さを醸し出す、いつでも自慢の祖母だった。



「疲れただろう?早くお入り」

「うん、ありがとう」

孫の唐突すぎる行動を咎めず、昔と一切変わらぬ態度で中へ入るように促すおばあちゃんに続いて行った。