「――冗談ですよ! 貴方をここに連れてきたのは僕ですからね。ただ――どうやって負けたのか知りたかったんです。あそこまで圧倒的に負けたのは初めてですから……」


「…………何ですか、沖田さん。私をからかって遊んでいたのですね」


腹が立つ前に脱力感に襲われ、光は重いため息を吐く。沖田の無邪気な顔を見れば、怒ることなど出来るはずがない。


「あはは。まあまあ、いいじゃないですかー! それよりさっきの技、教えて下さい」
堅苦しい口調は消えて、数年来の友人と話すように、朗らかな表情になった沖田。


「駄目です。ほら、沖田さんこそ無駄口をきかないで早く案内して下さい」


「ええ?! 教えて下さいよー」


「……沖田さん?」


「わかりました! わかりましたから早く付いてきてください! まったくケチですねー井岡さんは……」


失礼な台詞が聞こえた気がしたが、沖田には追及しても不毛だと悟り、口を閉ざした。


昼の稽古が終わったのだ。隊士たちが道場の中から出てきて、辺りがざわついてきた。この後は広間で昼餉をとるのだろう。


沖田に挨拶をして通り抜けていく隊士たち。その時、背中を氷の刃が突き刺すような、光を射抜く視線を感じた。


それも一瞬。背後に素早く視線を走らせるが、すでに視線は消えている。